(前回に続きペンタングル1stアルバム曲目紹介の後半です)
LPレコードでは前回の、
①Let No Man Steal Your Thyme
②Bells
③Hear My Call
④Pentangling
以上4曲がサイドAに収録された曲で、①はトラッド、②がオリジナルのインスト・チューン、③はゴスペルのアレンジ、そして④もメンバー全員で作ったヴォーカル入りのオリジナル曲です。
レコードで聴いていた時には④の“Pentangling”の余韻に浸りながらドキドキワクワクしながら大事にレコードを手の指紋も付かないように大事に裏返しB面の溝に針を落したのをよく覚えています。
それにレコードの時代ではそのレコードを出すミュージシャンは当然曲順にはこだわっています。
サイドAの1曲目とサイドAの最後の曲、サイドBの最初の曲とそのレコードのフィナーレを飾るサイドBのラスト曲は結構時間をかけて考えると、その当時に大阪で数枚のLPレコードを出していた方に直接聞きました。
では収録曲の後半を。
5.Mirage/ミラージュ(2:00)
レコードではB面の1曲目になるバート・ヤンシュのヒステリックなスナッピング奏法で始まるヴォーカル入りのオリジナル曲。Eドリアンの緊張感漂う独特な雰囲気を醸し出している曲で、ダニー・トンプソンのベースが抑えて弾いているバートとジョンのギターの後で激しくシンコペーションしています。
6.Way Behaind The Sun/太陽の彼方への道(3:01)
②の「Hear My Call」同様にスティープル・シンガーズのゴスペル曲をアレンジしたロックン・ロール調の軽快なヴォーカル曲でステージでは彼らの定番曲。ヴォーカルのジャッキーも実にのびのびと歌い、ライブではメロディにアドリブも交えて気持ち良さそうにパフォーマンスしています。
それと、この曲のスタジオの別テイクではジョンは珍しくボトル・ネックでガンガン弾いています。
7.Bruton Town/ブルートン・タウン(5:05)
当時、僕はこの曲を聴いて生まれて初めて“バラッド”と呼ぶ音楽があると知りました。
ブリテッシュ(英国、ウエールズ、アイルランド、スコットランド等のブリテン諸国)・フォークには古より歌い継がれているトラッドの中に主に物語性を持つ、しかも何らかの事件、出来事をもとにした物語歌をバラッドと呼ばれるのですが、この「ブルートン・タウン」は本来「The Bramble Briar」(荊の道)の名前でよく知られているそうです。
この曲もEドリアン・モードで、ヴォーカルはジャッキーとバートが淡々とほとんど感情移入しないで歌い上げています。それは、もともとバラッドでは歌い手が感情移入をせづに物語を伝える役目のようなスタイルが正しいとされています。つまり歌に出て来る主人公になって感情豊かに歌うのは良くない、とのことです。それと伴奏とする楽器は出来る限り目立たぬように控えめで演奏するのが好ましい…とも。
当時はこのような考え方のバラッド歌手によってバート・ヤンシュ達はかなり批難されたようですが…。
歌詞はもちろん英語ですが、非常に長いのと物語を理解するのに日本語訳を載せておきます。
*ブルートンの街にふたりの息子と一人娘を持つ農場主が暮していた
子供達はいつも親を心配させてばかりでいた
息子達ふたりは秘密の会話を交わした
「召使いは妹に求婚している このままではふたりは結婚してしまう
俺はふたりの関係を終わらせる
それにはあの男を殺してしまえばいい」
兄弟は怪しまれないように召使いを狩りに誘った
冷酷な兄弟はその召使いの命を奪った
そばには干上がった水路があり一面は草に覆われていた
他に隠し場所を思いつかなかった兄弟はその殺した若い召使いの亡骸を水路に投げ込んだ
兄弟が狩りから帰ると妹は一緒だったあの人人はどうしたのかと尋ねた
「お兄さん達、何か私に秘密を隠しているみたい わたしに教えて下さい」
「俺たちを疑うとは不愉快だ 狩りに出てあいつとは別れて それからは姿を見ていない」
その夜、夢の中で娘は愛しい人を見た
そしてベッドで泣いていると血まみれのコートを着た彼が現れ
「泣かないでおくれ大切な人 悲しまないでおくれ
お前の二人の兄が私を殺したその場所に来て欲しい きっと私は見つかるから」
次の朝 暗い気持ちで目覚めた娘は 夢で見た森の奥の水路に愛する人の亡骸を見つけた
そして娘はその愛する男の傍らで悲しみに暮れていた
しかし三日三晩になるとあまりの飢えで泣く泣く家に帰って行った
・・・
だいたい以上がこの唄の内容ですが、「めでたしめでたし」とはなっていません。
娘が殺された若者を見つけ、口づけをして生き返る…ようなディズニーのような物語でなくて、その昔に現実に起った何らかの事件を物語っているのですが、実はこの後にはまだ続きがあるのです。
ペンタングル解散後の1985年頃に来日したバート・ヤンシュとジャッキー・マクシーが二人でこの曲を歌った時にはこの後にもう一節の歌詞を聴きました。
ギターはこの曲の間奏にあたるEmの1コードでのジョン・レンボーンが、とにかく最高のソロを聴かせてくれます!
引く音も加える音もこれ以上にない完璧なパッセージで、ジャズでもロックでもブルースでもポップスでもない完璧なフレーズが聴けます!
8.Waltz/ワルツ(4:54)
ペンタングルのオリジナル1stアルバムの最後に収録されているインスト・チューン。
この曲もステージでは定番曲で、ライブではダニーのベース・ソロがレコード以上にフィッチャーされています。
この速い三拍子の曲は、ジョン・レンボーンのソロ「ワルツ」、バート・ヤンシュのソロ「カスバ」を加え、ジャズ・ベーシストで偉大なミュージシャンのチャーリー・ミンガスの「Bitter Git In Your Soul」をヒントに作られた曲と断言出来ます。そしてこのミンガス作のジャズ・チューン「Bitter Git In Your Soul」を一本のギターにアレンジして弾いているディヴィ・グレアムのギターがジョンとバートの元のパッセージだと思います。
以上がペンタングルのオリジナル1stアルバムの全収録曲ですが、現在市販されているCDには数曲のボーナス・トラックも収録されています。
そしてこの「ボーナス・トラック付き」のCDも数種類のバージョン違いが発売されています。
かなんわ。(Part11thへ)
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